野暮天
「さてはあんた、馬鹿ね?」
ナミの一言にも、ゾロにはまったく応えた様子がない。
知らんふりで、強い酒をまるで水のようにあおり続けている。
まあ実際自分も相当酔ってるな、という自覚はナミにもあったのでゾロの無反応っぷりも頷ける。
頷けるがやはり腹立たしい。
寄港した島は平和で、海軍の出張所みたいな事務所がひとつあるだけだった。
当然ルフィは接岸するなり飛び出して行ってしまったし、ウソップとチョッパーとロビンはそれぞれ寄る店がある。
雑貨店や本屋や薬屋や、それに卵を仕入れるために生鮮食料品店へも。
食料品ならサンジだが、ウソップは「特別製の卵じゃなきゃダメなんだ。俺様じゃなきゃ、それを見分ける事ぁできねえなぁ。」と言って、その役目だけは譲らない。
「なんで特別製の卵がちいせぇ島の食料品店で売ってんだよ。」
とか言いながらも、サンジはウソップの領域には手を出してこない。
今夜の船番はサンジ。
当然船に残るもんだとばかり思っていたゾロに、夜の繁華街でばったりでくわしたナミは驚いた。
「何やってんの、あんた。」
「メシ食いに来たんだ。悪ぃかよ。」
「・・・」
「んだ、その目は。」
「はっは〜ん」
「うるせえな。何だっつってんだろ。」
「サンジ君、怒らせたのね。」
「てめえに関係ねえだろ。」
違う、とか怒らせてねえ、とかあの野郎が何の関係があんだ、とか誤魔化そうとしてたのも今は昔。
GM号の化け物カップルは、今や堂々としたものだ。
ゾロだけだが。
GM号クルーは全員知っているのに、サンジだけが頑なに認めようとしない。
『あのクソ剣士が悪い。俺ぁまっぴらなんだ。』だの『クソ剣士が俺のあまりの素敵っぷりに血迷ってんだ。ナミさ〜ん、助けてくれよ〜ぅ』なんぞとほざいている。
誰も相手にしないが。
チョッパーなどは、無邪気さゆえの残酷さで、
『なあサンジ、どうして昨夜も交尾したのにそんなにゾロの事嫌うんだ?嫌なら嫌だって言ったほうがいいぞ。』
と全員が揃っているラウンジで言い放ち、ゾロに向き直ったかと思うと今度は、
『ゾロもゾロだ。サンジがあんなにいやだとかやめてくれとかいくとか死ぬとか言ってるのに、なんでやめてやらねえんだ。サンジが可哀相だろ?』
と言った。
確かに昨夜見張り台の上で事に及んだ。
朝シャワーなぞ使ってるヒマがなかったから、鼻の利くチョッパーにバレたんだろうし、もともと野生動物の耳にはあのぐらいの距離なんて事もないのかもしれない。
まあ、こういうのを自業自得っつーんだな、と食後の緑茶なんかを飲みながらゾロは呑気に考える。
いつも通り、ゾロ好みの熱さに入れられたお茶を。
だけどサンジは真っ赤になって、思いきりゾロを蹴り飛ばした。
どうせまともに食事できるお店選ぶ事もできないんでしょ、だったら私がつきあってあげるからおごりなさいよ、とナミがまくしたててゾロを手近な店に連れ込んだ。
おごらせるのが第一目的。
らぶらぶっぷりが最近ちょっと鼻につくこのエロゾロに、少しぐらいお説教をしてやろうと思ったのが第二目的。
とりあえず食べて飲んで、それからじっくりゾロに絡むことにした。
人のおごりっておいしいわ、とつい酒を過ごしてしまったかもしれないと思いながらも、ゾロの仏頂面をなんとか崩してやりたくてナミは口を開く。
「なんとか言いなさいよ。エロゾロ。ムッツリすけべ。強姦魔。」
最後の単語で、店の中の客が何人か振り向いた。
ゾロに睨まれてすぐに慌てて元に戻るが。
「誰が強姦魔だ。」
「あんたよ。エロ魔獣。」
ゾロがうんざりしたような目でナミを見た。
「俺が誰を強姦したっつーんだよ。」
「サンジ君。」
ぴく、と眉を動かしてゾロがナミを睨む。
「てめえ、何言ってやがんだ。」
「だってそうでしょ。じゃなきゃ、あのサンジ君があんたなんかと寝るわけないじゃない。」
「なんか、って何だこの野郎。」
「でもさあ、あのサンジ君がねぇ。人生ってサプライズ。」
「まあな。」
あら、とナミは目を見開いた。
いまゾロが。
いまゾロが「まあな」って言った?
「まあな」って?!
「なんでまあな、なのよ。」
「人生何が起こるかわからねえ、って言いてえんだろ。てめえはよ。」
「そうだけど。」
「そういうこった。何が起こるかわからねえもんだ。」
「え?」
「てめえの言いてえ事も、それだろうがよ。アレが俺に惚れるなんて、って事だろ。」
『なんか微妙に自惚れたお惚気言ってない?このヒト。』
「なになに?ねえ、サンジ君のほうがあんたに惚れたの?それともあんたがサンジ君強姦したのが先だったの?」
「だからしてねえって。」
ナミがわくわくする胸をおさえて、さりげなくゾロのジョッキにビールではなくてウオッカを注いだ。
たっぷりと。
「人生色々ね〜。まあ飲んで飲んでよ。」
ジョッキのウオッカを一息で半分以上飲み干して、ゾロは笑った。
爽やかにはほど遠い、それはそれは悪そうな笑み。
「なんだお前。何聞きだそうってんだ?」
「あらやだ。人聞き悪いわね。私はただ今夜はとことん飲みましょう、って言いたいだけよ。何ならここは私のおごりにしてもいいわ。」
「お、そうか。悪ぃな。」
小遣いが限られているから、陸で飲むにも量は限られ、船の上ではラウンジと食料庫の酒はサンジにがっちり守られていて、浴びるほど飲むなど到底できない。
ゾロはナミの申し出にほいほいのってきた。
「けどね、サンジ君もひどいわよね。」
「あぁ?何がだ。」
「だってゾロの前であたしやロビン褒めまくりでしょ?陸に上がればナンパし放題だし、恋人のあんたの事は足蹴にしてどっか行っちゃうじゃない。」
「あれが女褒めまくりなのは今さらだ。死んでも治らねえだろ。」
「でもあんたにしてみれば面白くないでしょ?」
「別に。」
「いいのよ〜、強がらなくても。」
「強がる必要もねえがな。」
「あら〜、そう〜?」
「てめえらには、あいつに突っ込むブツがねえからな。」
「・・・」
下品だわ、とナミが眉をひそめ・・・る前に気を取り直す。
『今夜はこいつから馴れ初め話や、サンジ君のロストバージンや夜の生態なんかを聞き出すんだから!』
めげないめげない、と自分にファイト!と活を入れる。
好奇心を満足させるための、滅多にない機会なんだから、とナミは舌なめずりせんばかりだ。
「あたしらにブツなくたって、サンジ君にはあるのよ?サンジ君が女の子と寝ても平気なの?」
「馬鹿だな、てめえ。」
ゾロがこれみよがしに溜息をついてみせながら、ナミに言った。
「あの野郎が女に突っ込んだぐらいで満足できっかよ。」
「何それー。侮辱じゃな〜い?」
「突っ込まれてイくのを憶えちまったからなぁ」
くくく、と悪そうに笑う。
酔ってる!ゾロが酔ってるわ!とナミが踊り出しそうになる。
「でも入れて擦って出すのは同じでしょ?だったら女相手でも」
大概ナミも酔ってるのだが、本人に自覚はない。
「馬鹿女。入れるのと入れられんのでは違ぇんだよ。」
「あら〜。じゃあさあ、あんたこんなトコでこんな事してていいのぉ?」
「あぁ?」
酔った目でゾロがナミを見る。
「サンジ君、体が夜泣きしてんじゃないのぉ〜?」
「夜・・・。てめえこそ言ってる事が親父くせえな。」
「おほほほほ。何とでもおっしゃい。」
ちょっとタガが外れてしまったナミ。
「で、どうなのよ。心配じゃないの?」
「何がだ。」
「馬鹿ねえ、サンジ君よぉ。」
「あの阿呆がどうしたってんだ。」
「浮気よ、う・わ・きv」
「すっかよ。」
「あら〜、一人で寂しく悶々と船番してんのよ?明日は街に出てレッツナンパだーって言ってたじゃない?明日はアンタが船番でしょ?じゃ、サンジ君浮気決定じゃないのよ〜」
何故か勝ち誇った気になって、ナミが高らかに笑う。
「しねえよ。」
ゾロが言ったその一言がいやに自信ありげだったので、ナミはかちーんときた。
「なんで言い切れるのよ。」
「言い切れっぞ。」
「だから何でだって聞いてるんじゃない。」
にや、と笑ったゾロの顔。
思わずナミでさえぎくりとするほどの、ワルそうな色気。
「あの野郎が、俺以外のブツで満足できっかよ。」
そう言い放ったゾロが、ジョッキの残りのウオッカをあおった。
「さ・・・」
「あ?何だよ、今度は。」
「最低だわ、あんたーーー!!!」
「んだよ、うるせえ女だな。言えっつったり最低だっつったり。」
「私みたいな可愛い女の子相手に、なんて事言ってんのよ!」
「てめえだってさっきは随分な事喋ってたじゃねえかよ。」
「うるさいわね、うるさいわね。セクハラだわ!」
「知るかよ。」
「それにそんな事言い切れないでしょ!サンジ君があんた以外の・・・ナニじゃ満足できないなんて!」
ゾロの目がまっすぐにナミを見た。
「な・・・なによ。」
「言えんだよなぁ、それがよ。」
にやり。
まただ!まただまただまただ!
その顔で笑うなー!とナミが地団駄を踏みたくなる。
『その顔は卑怯だ!その顔はずるいでしょー!』
ナミの思いをよそに、ゾロはアルコールに濡れた舌で唇を舐めながら言った。
「あの阿呆が言ったんだから、間違いねえだろ。てめえのじゃなきゃダメなんだ、ってよ。突っ込まれてイきながら叫んだんだから、嘘じゃねえだろ。」
「…!」
その後、ゾロはナミにしたたか殴られボコられ。
「自分だってサンジ君以外じゃ突っ込む気もなくて、こんなとこほっつき歩いてたくせに!怒られてむすくれてぶーたれて!あああああもうなんだか頭来たわ!」
足音も高く、ナミは酒場のドアをばん!と開いてどかどか出ていった。
店中の客の視線を浴びまくりながら。
頭くらくらっときている間に飲み代を踏み倒され、停泊中のこづかいはたいても足りなくて。
「あのくそあま」
忌々しげに呟く声も空しく。
ゾロは船に使いをやって、サンジに迎えにきてもらうしかなかった。
翌日の夜、ナミへの鬱憤をサンジとのセックスで晴らそうとしたゾロは、今度はサンジにしたたか蹴られた。
昨夜の酒場での事の顛末まで馬鹿正直に話してしまったものだから、サンジの蹴りは冴え渡り。
それでもゾロも、蹴られながらも最後には組み敷き。
サンジはゾロに突き上げられながら、ナミには到底聞かせられないようなセリフを、さんざん言わせられてしまった。
END
んで、これも某様からの「書けるもんなら(以下略・笑)」
お題は、「サンジが如何に可愛いか、自分がどれだけ惚れてるか、臆面もなくクルーにおおっぴらに惚気るゾロ」でした。